顧客名簿や問い合わせ履歴、見積書は残っているのに、
「このお客様に次はいつ連絡するのか」
「以前どんな相談を受けていたのか」がすぐに分からない、
そんなことはないでしょうか。
顧客情報を管理する目的は、情報をたくさん集めることではありません。
お客様の状況を理解し、必要なときに適切な対応をするためです。
記録があっても、その後の行動に結びつかなければ、営業活動や顧客対応を改善する材料として十分に活用できません。
今回は、ハイファイブのセミナー資料「顧客情報を売上につなげる『CRM活用術』」をもとに、顧客情報を「名簿」から「次の行動を考えるための情報」へ変える方法を解説します。
CRMというシステムを導入していなくても、Excelや共有の一覧表などで取り組める考え方を中心に紹介します。
齋藤 功 株式会社ハイファイブ 代表取締役
マーケティング戦略、業務プロセス設計、ウェブ制作、CRM導入を支援。
対話を通じて事業や業務の課題を整理し、現場で機能する仕組みに落とし込むことを専門としています。
セミナースライド
以下では各スライドの内容を順番に解説します。
記事後半には、自社の顧客情報をどのように活用するかを考える4つのワークもまとめています。
CRMの目的は、顧客情報をためることではない
こんな状況はありませんか

見積もりを出した後の状況が分からない。
担当者が変わると、それまでの経緯が伝わらない。
誰にいつ連絡すべきかが決まっていない。
受注後の問い合わせ履歴を探すのに時間がかかる。
これらは、顧客情報がまったく存在しないから起きる問題とは限りません。
名簿、メール、見積書、個人のメモなど、それぞれの場所に情報が残っていても、必要な人が必要な場面で使えないことがあります。
まずは自社で最も近い状況を一つ考えてみてください。
改善の出発点は、システムの機能ではなく、どの対応で何が分からず困っているのかを具体的にすることです。
名簿から関係の記録へ

CRMはCustomer Relationship Managementの略で、顧客との関係を管理・改善する考え方を指します。
一般には顧客管理のシステムを意味する場合もありますが、この講座では考え方そのものを重視します。
顧客を知る、状況を共有する、行動する、結果を確かめる。
この循環がつながることで、記録が営業や顧客対応に役立つようになります。
例えば、過去の相談内容と見積もり後の予定が分かれば、次の連絡で何を確認するべきかを考えやすくなります。
重要なのは、顧客情報をためることではなく、次の適切な対応につなげることです。
顧客情報を、使える単位に整理する
「顧客情報」を一枚の表だけで考えない

「顧客情報」と一言でいっても、そこには異なる種類の情報が含まれています。
顧客となる会社や個人、その窓口となる担当者、相談・見積もりごとに発生する案件、電話や訪問などの営業活動、問い合わせやアフター対応の履歴などです。
例えば、一つの会社から複数の相談が来ることがあります。
同じ担当者が複数の案件に関わることもあります。
すべてを顧客名簿の一行だけで管理しようとすると、どの相談が進行中なのか、どの対応が終わったのかが分かりにくくなります。
情報を細かく分けること自体が目的ではありません。
必要な関係をたどれる状態にすることが大切です。
法人・担当者・案件を区別する

架空の住宅設備会社「みどり住設」の例で考えます。
賃貸管理を行うA社には総務と施設管理の担当者がいて、外壁塗装、空室の内装、給湯器交換といった別々の案件があるとします。
それぞれの案件は、進み具合も、対応期限も、担当者も同じとは限りません。
顧客であるA社の情報と、担当者の情報、案件ごとの情報を区別しておけば、同じ取引先で複数の相談が同時に進んでも状況を追いやすくなります。
一方、個人のお客様を中心にした事業では、顧客と連絡先を同一として扱うこともあります。
情報の持ち方は業態によって変わるため、形式を先に決めるのではなく、自社の取引の実態に合わせて考えます。
履歴があると「次の行動」が変わる

顧客の名前と電話番号だけでは、次に何を話すべきかは分かりません。
ところが、以前は浴室を改修し、現在は外壁塗装の見積もりを提出していて、色の候補を検討中であり、次回は色見本を持参して訪問する予定だと分かれば、対応の内容が変わります。
担当者が不在になった場合でも、過去の相談・見積もり・未回答事項・次回予定が共有されていれば、次の人が状況を把握しやすくなります。
お客様に同じ説明を繰り返していただく負担も減らせる可能性があります。
つまり、履歴は単なる過去の記録ではなく、これからの対応の質と速さを支える情報です。
まず必要なデータだけ選ぶ

CRMを考え始めると、記録できそうな項目を増やしたくなるかもしれません。
しかし、項目が多いほど入力の負担は大きくなり、使われない情報が増えることもあります。
この講座では「使いたい判断 → 必要な情報 → 入力ルール」の順番で考えます。
例えば「今週、誰に連絡するかを判断したい」のであれば、次回対応日と担当者が分かる必要があります。
さらに、商談後には担当者が更新する、といった記録のタイミングを決めます。
最初は、顧客名・連絡先、相談内容、案件の状態、次回対応日、担当者、最終対応履歴などから検討できます。
個人情報は利用目的に必要な範囲に絞ることも欠かせません。
この情報で何を判断できる?

同じ「日付」の項目でも、使い道は異なります。
「最終連絡日」があれば、しばらく連絡していないお客様に気づく手掛かりになります。
「次回対応日」があれば、今日や今週対応すべき案件を確認できます。
反対に、誰も使っていない項目があれば、入力を続ける必要があるか見直してもよいでしょう。
ただし、法令や業務上必要な保存情報まで安易に削除するという意味ではありません。
自社の顧客名簿や管理表にある項目を一つ選び、「誰が、どんな判断のために使っているか」を考えてみてください。
顧客接点と営業活動を「次の行動」につなげる
顧客接点はつながっている

問い合わせ、相談、見積もり、提案・フォロー、受注または失注、アフター対応。
顧客との関係は一度きりの出来事ではありません。
それぞれの段階で、記録する内容と次に行うことが変わります。
問い合わせでは相談内容と流入経路、相談では要望や現地の情報、見積もりでは提出内容と日付、フォローではお客様の回答や気になる点を確認します。
段階ごとの記録がつながると、次の担当者が何をすべきか判断しやすくなります。
すべてを一度に記録するのではなく、その場面で必要な情報を残して次の行動へつなぐことが重要です。
「案件」で営業機会を管理する

顧客が名簿に登録されていても、商談が進んでいるとは限りません。
一人のお客様から浴室改修と外壁点検という二つの相談が来れば、それぞれ別の進捗として把握する必要があります。
案件には、何を実現する相談なのかという目的、現在の状態、見込金額、次に行うことなどを整理します。
金額が未定の場合は、無理に仮の金額を入れる必要はありません。
顧客単位で関係を把握しながら、案件単位で営業機会を追う。
この区別があると、見積もり後の対応漏れや停滞にも気づきやすくなります。
進捗よりも「次の行動」を明確に

「見積提出済み」という状態だけでは、その案件が今後どう動くのかは分かりません。
お客様からの回答を待っているのか、こちらから確認する予定なのか、社内で追加の準備が必要なのかが見えないためです。
例えば「来週までに仕様確認の連絡をする」「担当は営業A」「期限は○月○日」と決めておけば、やるべきことが具体的になります。
案件の状態に加えて、次の行動・担当・期限をひもづける。
これが、顧客情報を実際の活動に変える基本です。
失注も、次に生かせる情報

受注に至った案件だけを残していると、なぜ選ばれたのか、どこで選ばれなかったのかを振り返りにくくなります。
失注した場合も、相談内容、理由、再接触の可否などを必要な範囲で記録することで、次の提案を考える材料になります。
ただし「価格が理由だった」と顧客が実際に伝えたのか、担当者がそう推測しただけなのかは区別する必要があります。
記録は担当者の責任を追及するためではありません。
顧客理解を深め、次の提案や対応を改善するために使います。
顧客情報を使い続けられる運用をつくる
記録が続かなければ、CRMは活用できない

入力が面倒で記録されず、データが不十分だから誰も使わず、ますます記録が続かなくなる。
顧客管理では、このような悪循環が起こり得ます。
改善するには、項目を減らし、いつもの仕事の中で記録できるようにし、記録した内容を実際の会議や日々の確認に使うことが大切です。
記録を義務にするだけではなく、使うために記録し、記録したものを使う循環をつくります。
管理表でもCRMでも、この原則は変わりません。
記録ルールは短く、具体的に

問い合わせ受付時には受付担当が基本情報と相談内容を残す。
商談後には担当者が決定事項と次回予定を更新する。
完了時には受注・失注の結果と理由を記録する。
これだけでも、いつ誰が何を書くのかが明確になります。
ルールを長く作るよりも、普段の業務の節目に組み込むことが重要です。
また「何のために書くのか」が分かっていれば、現場でも必要性を理解しやすくなります。
データ品質:重複と表記ゆれに注意

同じ会社でも「A不動産株式会社」「(株)A不動産」「A不動産 本社」のように、異なる名前で登録されることがあります。
このままでは、案件や対応履歴が別々の顧客に分かれ、情報をまとめて見られない可能性があります。
対策として、顧客番号などの識別ルール、更新する責任者、重複や古い情報を定期的に確認する方法を考えます。
ただし名前が似ているという理由だけで自動的に統合してはいけません。
別の法人や拠点、取引先である可能性もあるため、人が確認して判断する必要があります。
閲覧権限と個人情報を考える

顧客情報は、誰でも何でも閲覧・編集できればよいわけではありません。
営業担当者、サポート担当者、管理者など、役割によって必要な情報は異なります。
例えば営業は担当案件を編集し、サポートは対応履歴を記録し、管理者は必要な管理情報を扱う、といった考え方です。
講義の権限表はあくまで概念例であり、実際には取り扱う情報や各社の体制、法令・安全管理上の要件に合わせて設計します。
基本となるのは、必要な人が、必要な範囲で、必要な情報を扱うことです。
指標と対応履歴から、顧客との関係を改善する
CRMは「管理」だけでなく「確認」に使う

顧客管理というと、担当者ごとの成果を集計するグラフを思い浮かべるかもしれません。
しかし、日々の業務で役立つのは、必ずしも見栄えのよいダッシュボードだけではありません。
担当者ごとの状況、次回対応が必要な案件、長期間動いていない案件、既存顧客への継続対応。
こうした一覧が見られれば、その場で具体的な行動を考えることができます。
きれいなグラフより、行動につながる一覧を。
自社で最初に確認したい情報を一つ決めるところから始めましょう。
まず見る3つの指標

講義では、顧客との関係を改善するための指標として、次の三つを例にしています。
- 見積後のフォロー実施率: 予定していたフォローのうち、期限までに実施できた割合。
- 一定期間動いていない案件数: 最終対応から一定期間、更新がない案件の件数。
- 問い合わせから商談への移行率: 対象期間の問い合わせのうち、商談になった割合。
いずれも、対象案件、集計期間、分母・分子などの定義をそろえなければ比較しにくくなります。
また、全指標を一度に管理する必要はありません。
自社の課題に合った一つか二つから始めることをおすすめします。
数字が悪い=原因が分かった、ではない

見積もり後の受注率が低いことが分かっても、その理由が価格なのか、提案内容なのか、顧客層なのか、フォロー方法なのかは分かりません。
そこで、案件ごとの対応履歴や失注理由、担当者が実際に聞いた顧客の声などを確認します。
数値は問題を発見するきっかけにはなりますが、それだけで原因を断定することはできません。
数字で気づき、履歴と現場の声で確かめる。 データを改善判断につなげるうえで重要な姿勢です。
継続取引と顧客対応にも活用

CRMの活用は、新規の商談や受注だけではありません。
購入や施工が終わった後の相談を記録し、適切な時期にフォローしたり、以前の依頼を踏まえて対応したりすることにも役立ちます。
架空の住宅設備会社なら、過去の施工履歴を確認できれば、その後の相談への対応がしやすくなるかもしれません。
ただし、顧客への連絡は目的や必要性を考え、同意と頻度に配慮する必要があります。
同じ案内を重複して送らないようにすることも、顧客関係の改善です。
自社のCRM活用を設計する
ワーク1:どんな「次の行動」を改善したい?

ここからは、自社の業務に置き換えて考えます。
問い合わせ後の対応、見積もり後のフォロー、既存顧客への再提案、アフター対応などから、改善したい場面を一つ選びます。
最初からシステムの必要機能を列挙するのではなく、「次回連絡の予定が一覧で分からない」といった現状の困りごとを一文にしてください。
詳しい記入方法は後半のワーク解説で紹介します。
ワーク2:判断に必要な情報を選ぶ

次に「誰に、何が起きたら、どの情報を見て、どう動くか」を考えます。
見積もり後のフォローなら、案件担当、見積提出日、案件の状態、次回連絡日、直近の合意事項などが候補になります。
必要な項目は5〜7個を目安に絞り、顧客・担当者・案件・活動のどこに記録するかも整理します。
たくさんの情報を集めるより、判断の場面で必要な情報が確認できることを優先します。
ワーク3:記録と確認のルールを決める

必要な情報が決まったら、「いつ記録するか」「誰が確認するか」「次の行動はどこで分かるか」「改善をどう確かめるか」を決めます。
例えば、見積提出時に担当者が次回連絡日を登録し、週に数回、未完了の予定を一覧で確認する、という方法が考えられます。
効果を確認する指標も、分母・分子・期間・対象を含めて定義します。
ワーク4:まず2週間で試す

最後は、一つの業務、少ない記録項目、一つの確認指標に絞って試行計画を立てます。
担当者と期間、振り返る日を決め、実際の入力負担や対応漏れの変化を見ます。
講義では2週間の試行を例にしていますが、期間は自社の業務量に応じて調整して構いません。
CRMがまだなくても、共有の表計算ファイルなどで試せます。
先に使い方を確かめておくと、将来システムを導入する際にも必要な条件が分かりやすくなります。
情報を見たときに次の行動が分かること

講義全体のポイントは、四つです。
顧客と案件を分けること、履歴を次の行動につなげること、入力と確認のルールを整えること、少数の指標を見て改善することです。
大切なのは管理項目の数ではなく、その情報を見たときに次の行動が分かることです。
情報を集め、判断し、行動し、結果を見て改善する
情報を集め、判断し、行動し、結果を見て改善する。顧客情報の活用は、この繰り返しです。
CRMはその仕組みを支える選択肢の一つであり、導入すること自体がゴールではありません。
まずは自社に必要な記録と行動を整理し、必要になった段階で業務に合った方法を選びましょう。
実践ワーク|顧客情報を次の行動につなげる
資料の27〜28ページには「顧客情報活用設計シート」、29〜30ページには架空企業「みどり住設」の記入例があります。
4つのワークで同じシートを段階的に完成させる構成です。
記入の際は、実在のお客様の個人情報を書かず、架空の例や情報の種類だけを使ってください。
改善したい行動を一つ選ぶ(スライド21/資料27ページ)

所要時間:3分。
「問い合わせ」「見積後フォロー」「既存顧客フォロー」「受注後対応」などから一つ選び、今の困りごとを一文で書きます。
みどり住設の例では「見積後の状況が担当者ごとのメモに分散し、次回連絡の予定を一覧で確認できない」としています。
すべての業務を改善しようとせず、まず一つの場面に絞ることがポイントです。
判断に必要な情報を選ぶ(スライド22/資料27〜28ページ)

所要時間:4分。
選んだ業務について、改善したい次の行動を決め、判断に使う情報を5〜7個ほど書き出します。
見積後フォローを題材にした架空の記入例では、顧客ID、案件ID、案件担当、見積提出日、案件状態、次回連絡日、直近の合意事項を選んでいます。
これらを顧客、担当者、案件、活動など、どこに記録するかも考えます。
今使っているExcelの管理表に置き換えて考えても構いません。
記録と確認のルールを決める(スライド23/資料28ページ)
所要時間:4分。
いつ、誰が情報を更新し、誰がいつ確認するのかを書きます。
あわせて、何を見れば改善したと判断できるかを考えます。
架空の記入例では、見積提出時に担当営業が次回連絡日を更新し、週2回、担当者と責任者が未完了の案件を確認する設計です。
指標は「予定フォローの期限内実施率」を例にしています。
実際には会社の対応件数や顧客の事情に合わせて決めます。
まず2週間で試す(スライド24/資料28ページ)
所要時間:4分。
試す範囲と担当者、振り返り日を決めます。
記入例では、営業1名の対象案件で2週間試し、入力の負担と対応漏れを確認します。
試行の段階では、すべてのデータを一元化する必要はありません。
まずは「必要な情報を、決めたタイミングで残し、実際に確認できるか」を確かめましょう。
その結果を踏まえて、項目やルールを調整します。
顧客情報を、次の一手に生かす
顧客情報を売上や顧客対応の改善につなげるには、名簿の充実だけでは足りません。
- 顧客・担当者・案件・履歴を区別し、関係を把握できるようにする。
- 案件ごとに、次の行動・担当・期限を明確にする。
- 記録する理由を決め、現場で続けられるルールにする。
- 数字だけで原因を決めず、対応履歴や顧客の声で確かめる。
- 一つの業務から試し、情報が実際に使われているか確認する。
CRMの導入を検討している企業も、まだ顧客情報をExcelなどで管理している企業も、最初に考えるべきことは共通しています。
自社の顧客情報を使って、誰が、どんな次の行動を起こせるようにしたいのか、その問いから始めてみてください。
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05.データから考える「改善施策の見つけ方」
06.成果につながる「ウェブサイト改善術」
ex01. 失敗しない「DX導入と要件定義」
ex02. 生成AIを活用した「業務改善と自動化」
ex03. 顧客に選ばれる「自社の強みと言語化」
ex.04 顧客の声から考える「商品・サービス改善術」