SaaSビジネスでは、新規顧客を獲得することと同じくらい、既存顧客に継続利用してもらうことが重要です。
広告費や営業コストが高騰する中、解約率(チャーン率)の改善はLTVの向上や収益の安定化に直結する重要な経営課題となっています。
国内外のSaaSでは、どの程度の解約率が一般的なのか
解約率の適正値は契約単価やターゲット市場によって異なりますが、参考値として以下のような調査があります。
- 国内BtoB SaaSの平均月次チャーン率:3.01%(Fullstar「カスタマーサクセス実態調査2025」)
- 国内BtoB SaaSの平均NRR:102.1%(同調査)
- グローバルSaaS企業の月次顧客チャーン中央値:3〜4%
- 上位25%のSaaS企業では月次チャーン率(1〜2%)程度という調査もあります(ChartMogul SaaS Benchmarks Report 2023)
※上記はあくまで参考値であり、契約単価、業種、契約期間によって適正水準は大きく異なります。
しかし、多くの企業では「先月の解約率は○%だった」という結果を確認するだけで終わってしまい、その背景や予兆まで分析できていないケースが少なくありません。
例えば、次のような課題はないでしょうか。
- 解約率を算出しているものの、計算方法が部署によって異なる
- 解約理由は記録しているが、実際の利用状況との関連性が分からない
- 契約更新の直前になって初めてリスクに気付く
- CRMとプロダクトの利用データが連携されておらず、顧客の状態を把握できない
こうした課題を解決するためには、CRMを単なる顧客管理ツールとしてではなく、顧客の状態を継続的に観測し、解約リスクを早期に発見するためのデータ基盤として活用することが重要です。
本記事では、SaaS企業がCRMを活用して解約率を改善するための考え方を、次の5つのフェーズに分けて解説します。
- 基盤構築(解約の定義とデータ連携)
- 解約率の可視化
- 解約原因の分析
- ヘルススコアによる予兆検知
- 改善施策とPDCAの定着
「解約が発生してから分析する」のではなく、「解約する前に気付き、適切なアクションを実施する」CRM活用の考え方を理解していきましょう。

SaaSにおける解約率(チャーン率)とは?まずは定義を統一する
解約率(チャーン率)は、SaaSビジネスにおいて顧客維持の状況を把握する代表的なKPI
| KPI | 内容 | 用途 |
|---|---|---|
| ロゴチャーン | 顧客数ベースの解約率 | 顧客維持 |
| レベニューチャーン | MRRベースの解約率 | 売上維持 |
| GRR | 売上維持率 | 解約影響 |
| NRR | アップセル込み売上維持率 | 成長性 |
| 任意チャーン | 顧客意思による解約 | CS改善 |
| 非任意チャーン | 決済失敗など | 決済改善 |
しかし、「チャーン率を管理しています」と言う企業でも、その定義は意外なほど統一されていません。
例えば、営業部門では契約企業数を基準に解約率を見ている一方、経営層は売上(MRR)ベースで評価していることがあります。
また、決済エラーによる契約終了と、顧客の意思による解約を区別せずに集計しているケースも珍しくありません。
このように、同じ「解約率」という言葉でも算出方法が異なると、改善施策の効果を正しく評価できず、部署間で認識のズレが生じてしまいます。
CRMを活用して解約率を改善するためには、まず「何を解約と定義するのか」を組織全体で揃えることが重要です。
ロゴチャーンとレベニューチャーン
解約率には、大きく分けて「顧客数」と「売上」の2つの観点があります。
「ロゴチャーン(Logo Churn)」は、契約している企業やアカウント数を基準とした解約率です。
例えば100社が契約しており、その月に5社が解約した場合、ロゴチャーン率は5%となります。
一方、「レベニューチャーン(Revenue Churn)」は、MRR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)を基準とした解約率です。
例えば月額5万円の顧客1社と、月額100万円の顧客1社では、事業への影響は大きく異なります。そのため、SaaS企業では顧客数だけでなく、売上ベースでも継続率を把握することが重要です。
特にエンタープライズ向けSaaSでは、ロゴチャーンは低くても、大口顧客の解約によってレベニューチャーンが大きく悪化することがあります。
そのため、CRMでも両方の指標を継続的に観測できるように設計しておくことが望まれます。
自発的チャーンと非自発的チャーン
もう一つ重要なのが、「なぜ契約が終了したのか」という観点です。
自発的チャーン(Voluntary Churn)は、顧客自身の判断による解約です。
例えば、以下が該当します。
- 他社サービスへの乗り換え
- 費用対効果が合わない
- 利用頻度が低下した
一方、非自発的チャーン(Involuntary Churn)は、決済カードの期限切れや請求エラーなど、利用を継続する意思はあるものの契約が終了してしまうケースです。
この2つを同じ「解約」として扱うと、改善施策の方向性を誤る可能性があります。
例えば、自発的チャーンが多いのであれば、オンボーディングやカスタマーサクセスの改善が必要かもしれません。一方で、非自発的チャーンが多い場合は、決済リマインドやカード情報更新の仕組みを整備することで改善できる可能性があります。
CRMには、契約終了日だけでなく、解約理由や解約種別も一貫したルールで記録することが重要です。
定義を統一することが、CRM活用の第一歩
ヘルススコアや解約予測モデルの構築といった高度な分析も、基礎となるデータの定義が揃っていなければ正しい結果は得られません。
そのため、最初に取り組むべきことは、「AIによる予測」や「高度なダッシュボード」ではなく、解約の定義を統一し、CRM上で一貫して記録・管理できる状態を作ることです。
この土台が整って初めて、利用ログや顧客行動を組み合わせた分析や、ヘルススコアによる予兆検知が意味を持つようになります。
フェーズ0:CRMを解約分析の基盤にするためのデータ設計
顧客データを横断的に観測できる状態を作る
解約率を改善したいと考えたとき、多くの企業は「ダッシュボードを作ろう」「ヘルススコアを設計しよう」と考えがちですが、実際の現場では、その前の段階でつまずくケースが少なくありません。
- CRMには契約情報がある
- プロダクトには利用ログがある
- Google Analytics 4(GA4)にはWebサイトの行動履歴がある
- サポートツールには問い合わせ履歴がある
例えば、それぞれのデータは存在していても、顧客単位で結び付けられていないため、「どの顧客が、どのような行動を経て解約したのか」を追跡できないのです。
そのため、CRMを解約分析の基盤として活用するには、まず顧客データを横断的に観測できる状態を作る必要があります。
共通IDを設計し、顧客データをつなぐ
最初に検討したいのが、各システムで共通して利用できる顧客IDの設計です。
- CRMの取引先ID
- SaaSプロダクトの契約ID
- GA4のUser ID
- MAツールのコンタクトID
これらを相互に関連付けることで、1社の顧客について「契約」「利用状況」「問い合わせ」「Webサイトでの行動」を一つのストーリーとして把握できるようになります。
もしこの紐付けができていなければ、「ログイン回数が減少している顧客が、実際に解約したのか」「資料請求後に契約した企業の継続率は高いのか」といった分析は困難です。
CRMは単なる顧客台帳ではなく、顧客情報を統合するハブとして設計することが重要です。
契約情報だけでなく、利用状況もCRMで管理する
解約率を改善するには、「契約しているかどうか」だけでは十分ではありません。
重要なのは、契約期間中の利用状況です。
例えば、次のような情報は解約リスクを判断する上で有効な指標になります。
- 最終ログイン日時
- ログイン頻度
- 主要機能の利用状況
- 利用ユーザー数
- オンボーディングの完了状況
- サポートへの問い合わせ件数
- NPSやアンケート結果
これらのデータをCRMに連携することで、営業・カスタマーサクセス・マーケティングが共通の情報を基に顧客対応を行えるようになります。
CRMは「結果」ではなく「変化」を観測する
CRMで管理すべきなのは、「現在の契約状況」だけではありません、むしろ重要なのは、顧客の状態がどのように変化しているかです。
- ログイン頻度が先月から半減した
- 管理者ユーザーだけしか利用していない
- 問い合わせ内容が「使い方」から「解約方法」に変わった
- 契約更新日まで残り30日になった
こうした変化は、それぞれ単独では小さな変化かもしれません。しかし、複数の変化が重なることで、解約の予兆として捉えられる可能性があります。
そのため、CRMには「現在の状態」だけでなく、「時系列で変化を追えるデータ」を蓄積することが重要です。
データ基盤が整えば、解約予兆の観測が始められる
このフェーズの目的は、高度な分析を行うことではありません。
まずは、顧客ごとの契約情報、利用状況、問い合わせ履歴、マーケティング接点などをCRMに集約し、「いつでも分析できる状態」を作ることです。
この土台が整うことで、次のフェーズでは月次チャーン率やコホート分析などを通じて、「どこで、どの顧客層の解約が発生しているのか」を可視化できるようになります。
フェーズ1:解約率を可視化する|チャーン率とコホート分析
データ基盤が整ったら、次に取り組むのが解約率の可視化です。
しかし、単に「今月のチャーン率は○%でした」という数字を毎月確認するだけでは、改善にはつながりません。
重要なのは、「どの顧客が」「どのタイミングで」「どのような傾向で」解約しているのかを把握し、施策につなげられる状態を作ることです。
そのためには、CRM上で複数の視点から解約率を分析できるダッシュボードを整備することが重要です。
月次チャーン率を継続的に観測する
まず基本となるのが、月次のチャーン率です。
ロゴチャーン率とレベニューチャーン率を継続的に記録することで、解約状況の変化を把握できます。
ただし、チャーン率は単月の数値だけを見ても十分ではありません。
例えば、以下のような月では数字の見え方が大きく変わります。
- 新規契約が急増した月
- 大口顧客が解約した月
- キャンペーンを実施した月
そのため、前月比や前年同月比とあわせて推移を確認し、変化の背景を読み取ることが重要です。
コホート分析で「いつ離脱するか」を把握する
チャーン率だけでは分からないのが、顧客がどのタイミングで離脱しているかです。
そこで活用したいのがコホート分析です。
- 契約開始から1か月以内
- 3か月以内
- 6か月以内
- 1年以上
といった期間ごとに継続率を比較することで、顧客が離脱しやすい時期を把握できます。
もし契約開始から3か月以内に解約が集中しているのであれば、オンボーディングや初期活用支援に改善の余地があるかもしれません。
一方で、契約更新前に解約が増える傾向が見られるのであれば、更新前のフォロー体制や価値訴求の見直しが必要になります。
コホート分析は、解約率という結果を「時間軸」で捉えるための重要な手法です。
顧客属性ごとの比較で課題を見つける
解約率は、すべての顧客で同じように発生するわけではありません。
CRMには契約情報や顧客属性が蓄積されているため、さまざまな切り口で比較分析を行うことができます。
例えば、次のような観点です。
- プラン別の継続率
- 業種別の継続率
- 企業規模別の継続率
- 獲得チャネル別の継続率
- 担当営業ごとの継続率
このような分析によって、「契約数は多いが解約率も高いチャネル」や、「特定プランでオンボーディングに課題がある」といった改善ポイントが見えてきます。
単純な契約件数だけでは評価できない”顧客の質”を把握できることも、CRMを活用する大きなメリットです。
ダッシュボードは「見るため」ではなく「動くため」に作る
ダッシュボードを整備すると、どうしても「数字を確認すること」が目的になりがちです。
しかし、本来の目的は、数字を見て次のアクションを決めることです。
- 新規獲得チャネルごとの解約率を比較し、広告投資を見直す
- オンボーディング期間の解約率が高ければ、支援内容を改善する
- 特定プランの継続率が低ければ、価格や機能構成を見直す
このように、CRMのダッシュボードは現状を報告するためではなく、改善施策の優先順位を判断するためのツールとして活用することが重要です。
フェーズ2:解約のシグナルを分析「なぜ解約したのか」をデータから読み解く
解約率を可視化できるようになると、次に知りたくなるのは「なぜ解約したのか」という原因です。
しかし、CRMに解約理由を記録するだけでは、本当の原因は見えてきません。
例えば、解約理由として「費用が高い」と回答した顧客がいたとしても、その背景には、
- オンボーディングが十分でなく、サービスの価値を実感できなかった
- 主要機能をほとんど利用していなかった
- 社内で利用が定着せず、担当者だけが使っていた
といった要因が隠れている可能性があります。
解約理由は重要な情報ですが、それだけで判断するのではなく、CRMに蓄積された利用データや顧客情報と組み合わせて分析することが重要です。
解約理由を一貫したルールで収集する
まず取り組みたいのが、解約理由の取得方法を標準化することです。
営業担当やカスタマーサクセス担当が自由記述で入力していると、同じ内容でも表現がばらつき、集計や分析が難しくなります。
そのため、CRMではあらかじめ解約理由を分類し、選択式で記録できるようにしておくことをおすすめします。
例えば、次のような分類が考えられます。
- 価格・費用
- 必要な機能が不足していた
- 他社サービスへの乗り換え
- 利用頻度の低下
- 社内体制の変更
- 事業終了・縮小
- 決済・契約上の問題
- その他
自由記述欄も併用しながら、まずは分析しやすいデータとして蓄積することが重要です。
利用ログと解約の関係を分析する
CRMにプロダクトの利用ログが連携されていれば、「解約した顧客にはどのような共通点があったのか」を分析できるようになります。
- 最終ログインから30日以上経過していた
- 主要機能を一度も利用していなかった
- 利用ユーザー数が徐々に減少していた
- オンボーディングが完了していなかった
といった傾向が見つかるかもしれません。
こうしたデータは、解約後の振り返りだけでなく、将来的な解約予兆の検知にも活用できます。
CRMには契約情報だけでなく、顧客の利用状況も継続的に蓄積することが重要です。
獲得チャネルごとの顧客の質を比較する
CRMにマーケティングデータが連携されている場合は、獲得チャネルごとの継続率を分析することも有効です。
- オーガニック検索
- Web広告
- 勉強会・相談会
- 展示会
- パートナー紹介
- インサイドセールス
といったチャネルごとに比較すると、契約数は多いものの解約率が高いチャネルや、契約数は少なくても長く利用してくれる顧客が多いチャネルが見えてきます。
マーケティング施策は獲得件数だけで評価されがちですが、CRMを活用することで「どのチャネルがLTVの高い顧客を獲得できているか」という視点で評価できるようになります。
これは、広告予算の配分や営業活動の優先順位を見直すうえでも重要な判断材料になります。
「解約した顧客」ではなく、「解約しそうな顧客」の特徴を見つける
原因分析は「過去を説明するための分析」ではなく、「未来の解約を防ぐための分析」
原因分析の最終的な目的は、過去を振り返ることではありません。
本当に知りたいのは、「解約した顧客に共通する特徴」です。
- ログイン頻度が急激に低下する
- オンボーディングが完了していない
- 問い合わせ件数が急増する
- 契約更新前に利用率が落ちる
といった傾向が見えてくれば、それらは将来の解約を予測するための重要なシグナルになります。
つまり、原因分析は「過去を説明するための分析」ではなく、「未来の解約を防ぐための分析」です。
この分析結果をもとに、次のフェーズでは顧客の状態を数値化するヘルススコアを設計し、解約リスクを早期に検知する仕組みを構築していきます。
フェーズ3:ヘルススコアで解約の予兆を検知する
解約する前にリスクを把握する
ここまでのフェーズで、以下のような準備が整いました。
- 解約の定義を統一する
- CRMを中心としたデータ基盤を構築する
- 解約率を可視化する
- 解約の原因を分析する
次に目指すのは、「解約してから分析する」のではなく、解約する前にリスクを把握することです。
そのために活用されるのが、ヘルススコアです。
ヘルススコアとは
ヘルススコアとは、顧客の利用状況や契約情報をもとに、現在の状態を数値化した指標です。
- 利用状況が良好で継続利用が期待できる顧客
- 利用頻度が低下し、フォローが必要な顧客
- 解約リスクが高く、早急な対応が必要な顧客
といった状態を、営業やカスタマーサクセスが一目で把握できるようになります。
重要なのはヘルススコアそのものではなく、「誰に、いつ、どのようなアクションを取るべきか」を判断するための共通指標として活用することです。
まずはルールベースで設計する
ヘルススコアというとAIを活用した高度な分析をイメージするかもしれませんが、多くの企業ではルールベースから始めることで十分な効果が期待できます。
例えば、CRMに蓄積されたデータをもとに、以下のような項目を評価し総合的に顧客の状態を判断。
| 評価項目 | 例 |
|---|---|
| ログイン頻度 | 直近30日間の利用回数 |
| 主要機能の利用 | コア機能を利用しているか |
| 利用ユーザー数 | 利用人数が増えているか |
| オンボーディング | 初期設定が完了しているか |
| サポート履歴 | 問い合わせ内容や対応状況 |
| 契約更新日 | 更新まで残り何日か |
最初から細かなスコアリングを目指す必要はありません。
むしろ、現場で「このスコアなら納得できる」と感じられるシンプルなルールから始め、運用しながら改善していくことが重要です。
機械学習による解約予測も選択肢になる
利用データや契約データが十分に蓄積されている企業であれば、機械学習を活用したチャーン予測モデルを構築することも可能です。
- 過去に解約した顧客
- 継続利用している顧客
このような顧客データを学習させることで、「現在の顧客が将来的に解約する可能性」を予測できます。
人では気付きにくい複数の要因の組み合わせからリスクを検出できるため、より精度の高い予兆検知が期待できます。
ただし、機械学習は大量かつ品質の高いデータが前提となります。
データが十分に整備されていない段階では、複雑なモデルを導入するよりも、ルールベースのヘルススコアを継続的に運用し、改善を重ねる方が成果につながるケースも少なくありません。
ヘルススコアは「通知」まで設計して初めて価値を持つ
ヘルススコアを計算するだけでは、解約率は改善しません。
重要なのは、スコアの変化をきっかけに適切なアクションが実行されることです。
- ヘルススコアが一定以下になったらCS担当者へ通知する
- 契約更新日の30日前にフォロータスクを自動作成する
- 利用率が急激に低下したら社内チャットへアラートを送る
- 主要機能を一定期間利用していない顧客へ活用コンテンツを配信する
このようにCRMのワークフロー機能や外部ツールと連携することで、顧客の状態変化をリアルタイムで捉え、迅速な対応が可能になります。
CRMは情報を蓄積するだけでなく、「次に何をすべきか」を組織に知らせる役割も担います。
ヘルススコアは運用しながら育てていく
ヘルススコアに正解はありません。
事業内容や提供するサービスによって、継続利用につながる行動は異なります。
そのため、一度設計して終わりではなく、改善を繰り返しながら、自社に合った指標へ育てていくことが重要です。
- 実際に解約した顧客のスコアを振り返る
- 評価項目や配点を見直す
- 新たな利用データを追加する
CRMにデータが蓄積され続けるほど、ヘルススコアの精度も高まり、より早い段階で解約リスクを捉えられるようになります。
フェーズ4:解約率を改善する施策を実行し、PDCAを定着させる
解約率を改善するためには、データを収集・分析するだけでは十分ではありません。
CRMで顧客の状態を把握し、ヘルススコアによってリスクを検知できたとしても、その情報をもとに適切なアクションが実行されなければ、解約率は改善しません。
CRMを活用する目的は、顧客データを蓄積することではなく、顧客の状態変化に応じた施策を継続的に実行できる組織を作ることです。
オンボーディングを改善する
問題が発生してから対応するのではなく、「つまずきそうな顧客」に先回りして支援
SaaSでは、契約後の数週間から数か月が継続率を大きく左右します。
フェーズ1・2で実施したコホート分析によって、「契約から3か月以内に解約が集中している」と分かったのであれば、まず見直すべきはオンボーディングです。
- 初期設定が完了しているか
- 主要機能を利用できているか
- 管理者だけでなく現場ユーザーにも定着しているか
といった状況をCRM上で把握し、必要に応じてフォローアップを実施します。
問題が発生してから対応するのではなく、「つまずきそうな顧客」に先回りして支援することが重要です。
プロアクティブなカスタマーサクセスを実現する
ヘルススコアが低下した顧客には、解約の申し出を待つのではなく、早い段階でコミュニケーションを取ることが効果的です。
- 活用状況のヒアリング
- 操作方法のレクチャー
- 活用事例の紹介
- 定期レビュー(QBR)の実施
など、顧客の状況に応じた支援を行います。
CRMのワークフローを活用すれば、ヘルススコアの低下や利用率の減少をきっかけにタスクを自動生成し、担当者へ通知することも可能です。
こうした仕組みを整えることで、担当者の経験や勘に頼らず、組織として一貫したカスタマーサクセスを実践できます。
契約更新前のフォローを仕組み化する
更新時期が近づいて初めて顧客へ連絡するのでは、十分な関係構築ができないまま更新判断を迎えてしまう可能性があります。
そのため、CRMでは契約更新日を管理するだけでなく、更新日から逆算したアクションを設計しておくことが重要です。
- 更新90日前に利用状況を確認する
- 更新60日前に改善提案を実施する
- 更新30日前に契約内容を確認する
といったフローをワークフローとして登録しておけば、担当者による対応漏れを防ぐことができます。
非自発的チャーンへの対策も忘れない
解約率の改善というと、利用促進やカスタマーサクセスに目が向きがちですが、非自発的チャーンへの対策も重要です。
- クレジットカードの有効期限切れ
- 決済エラー
- 請求情報の更新漏れ
などが原因で契約が終了してしまうケースは、顧客満足度とは関係なく発生します。
- 決済失敗時の自動通知
- 支払い情報更新のリマインド
- 担当者へのアラート
CRMと決済システムを連携させることで自動化できれば、本来継続していたはずの顧客を失わずに済む可能性があります。
月次レビューで改善サイクルを回す
CRMを活用した解約率改善は、一度仕組みを構築して終わりではありません。
毎月データを振り返り、改善を続けることが重要です。
- 解約率は改善したか
- ヘルススコアは適切に機能しているか
- どの施策が成果につながったか
- 新たな課題は発生していないか
営業、カスタマーサクセス、マーケティング、プロダクトなど複数の部門がCRMを共通基盤として活用することで、顧客の状態を共有しながら改善施策を検討できるようになります。
CRMは単なる顧客管理システムではなく、組織全体で顧客との関係を継続的に改善するためのプラットフォームと言えるでしょう。
CRMは顧客を管理するためではなく、顧客との関係を改善し続けるための基盤
SaaSビジネスでは、新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客との関係をいかに継続できるかが事業成長を左右します。そのためには、解約率という結果だけを見るのではなく、「なぜ解約が起きるのか」「どのような顧客が解約しやすいのか」を継続的に把握し、早い段階で適切なアクションを取ることが重要です。
本記事では、CRMを活用した解約率改善の進め方を、次の5つのフェーズに分けてご紹介しました。
- フェーズ0:解約の定義を統一し、CRMを中心としたデータ基盤を構築する
- フェーズ1:チャーン率やコホート分析を通じて現状を可視化する
- フェーズ2:利用ログや顧客属性をもとに解約の原因を分析する
- フェーズ3:ヘルススコアを活用して解約の予兆を検知する
- フェーズ4:オンボーディングやカスタマーサクセスの改善につなげ、継続的なPDCAを回す
重要なのは、ヘルススコアやダッシュボードを作ること自体ではありません。
CRMに蓄積されたデータをもとに顧客の状態を正しく把握し、「今、誰に、どのようなアクションを取るべきか」を組織全体で判断できる仕組みを作ることが、本来の目的です。
CRMは単なる顧客情報の管理ツールではなく、営業、マーケティング、カスタマーサクセス、プロダクト開発が共通の顧客データをもとに意思決定を行うための基盤です。
顧客との接点が増え、利用データが蓄積されるほど、解約率の改善だけでなく、LTVの向上やアップセル・クロスセルの機会創出にもつながります。
まずは、解約率の定義を見直し、自社のCRMで「顧客の状態を観測できる仕組み」が整っているかを確認することから始めてみてはいかがでしょうか。
参考文献・出典
- Fullstar「カスタマーサクセス実態調査 2025」
- Fullstar「カスタマーサクセス実態調査 2023」
- ChartMogul SaaS Benchmarks Report 2023
- ChartMogul SaaS Retention Report 2024
- KeyBanc Capital Markets Private SaaS Survey 2024 / 2025
- Sansan Annual Report 2025
- Recurly State of Subscriptions Report 2024
- Google Analytics Help「User-ID」
- HubSpot Knowledge Base「Customer Health Scores」